Notice: Function _load_textdomain_just_in_time was called incorrectly. Translation loading for the acf domain was triggered too early. This is usually an indicator for some code in the plugin or theme running too early. Translations should be loaded at the init action or later. Please see Debugging in WordPress for more information. (This message was added in version 6.7.0.) in /home/mizy/www/flow-t.net/novel/wp/wp-includes/functions.php on line 6121
秦の始皇帝 | 偉人ノベル
現在の速度: 17ms
現在の文字サイズ: 19px

秦の始皇帝物語

アジア世界史
年表
0年
0才
誕生
0年
12才
秦王となる
0年
29才
韓を征服
0年
31才
趙を征服
0年
34才
魏を征服
0年
36才
楚を征服
0年
37才
燕と齊を征服
0年
38才
中国を統一、始皇帝に。
0年
39才
文字、度量衡、貨幣を統一
0年
40才
万里の長城の建設を開始
0年
44才
焚書坑儒を命じる
0年
48才
暗殺未遂事件を生き延びる
0年
49才
死去
物語の長さ
4分21分

第一章:運命の子

私の名は嬴政。後に始皇帝として知られることになる男だ。しかし、私の人生は決して平坦な道のりではなかった。むしろ、生まれた瞬間から、運命に翻弄され続けた人生だったと言えるだろう。

紀元前259年、私は趙の邯鄲で生まれた。母は趙姫、父は秦の太子だった。しかし、私の誕生は喜びどころか、危険に満ちていた。両国の緊張関係の中で、私の存在そのものが政治的な駆け引きの道具とされかねない状況だったのだ。

「政よ、お前は特別な子だ。」母は私を抱きしめながら囁いた。彼女の声には愛情と不安が入り混じっていた。「でも、ここにいては危険すぎる。」

母の目には涙が光っていた。幼い私には、その涙の意味を完全に理解することはできなかった。ただ、何か重大なことが起きているのだということだけは感じ取れた。

「お母さん、僕たちどこかに行くの?」私は不安そうに尋ねた。

母は優しく微笑んで答えた。「そうよ、政。私たちは新しい家に向かうの。そこでは、あなたは本当の自分になれるわ。」

その夜、私たちは秘密裏に秦へと逃げ帰った。月明かりだけを頼りに、人目を避けながら進む道のりは、幼い私にとっては冒険のようでもあり、悪夢のようでもあった。

途中、私たちは何度か追っ手らしき気配を感じた。そのたびに母は私を強く抱きしめ、息を潜めた。その時の母の鼓動は、今でも鮮明に覚えている。恐怖と決意が入り混じった、激しくも力強い鼓動だった。

秦に到着してからも、しばらくの間は隠れるように暮らした。後に知ることになるが、私の存在そのものが、国家間の緊張を高めていたのだ。秦の宮廷内でさえ、私の処遇について意見が分かれていたという。

ある日、私は母に尋ねた。「お母さん、なぜ僕たちはこんなに隠れて暮らさないといけないの?」

母は長い間黙っていたが、やがて静かに語り始めた。「政、あなたは大きな運命を背負って生まれてきたの。あなたの中には、二つの国の血が流れている。それはとても特別なことだけど、同時に危険なことでもあるの。でも、いつかあなたはその運命を全うするわ。それまでは、強く、賢く育ってほしいの。」

その言葉の意味を、当時の私が完全に理解できたわけではない。しかし、自分が普通の子供ではないこと、そして何か大きな使命を背負っているということは、漠然と感じ取ることができた。

それから数年間、私は秦の宮廷で、ひっそりと、しかし着実に成長していった。文武両道の教育を受け、政治や軍事の基礎を学んだ。そして、13歳になったある日、突然、私の人生は大きく動き出すことになる。

秦の宮廷に呼び出された私は、そこで衝撃的な事実を告げられた。秦王が崩御し、次の王として私が選ばれたのだ。

「嬴政、お前は今日から秦王だ。」大臣の一人が厳かに宣言した。

その瞬間、私の頭の中は真っ白になった。王になるということが、どれほどの重責を意味するのか、13歳の私には到底理解できなかった。しかし、これが自分の運命なのだと直感的に悟った。

「母上、父上、私は正しい道を歩めるでしょうか?」その夜、一人で空を見上げながら、私は心の中でつぶやいた。

答えはなかったが、私は自分の使命を感じていた。この分裂した中国を、いつか必ず統一するのだと。それが、私に与えられた運命なのだと。

第二章:若き王の苦悩

13歳で秦王に即位した私は、突然、巨大な責任を背負うことになった。王としての日々は、想像を絶するほど過酷なものだった。

朝は早くから始まる。まだ暗いうちに目を覚まし、身支度を整える。そして、朝日とともに始まる朝議。そこでは、年長の大臣たちが、様々な国家の問題について熱心に議論を交わす。

「陛下、朝議の時間です。」呂不韋が私を呼びに来た。彼は私の後見人であり、実質的な政治の采配を振るう人物だ。

「わかった。すぐに行く。」

私は深呼吸をして、王としての仮面をかぶった。まだ子供だった私には、大人たちの政治的駆け引きを完全に理解することはできなかった。しかし、私は必死に学び、成長しようとしていた。

朝議の場で、私はただ黙って座っているわけにはいかない。時には意見を求められ、時には決断を下さなければならない。その度に、私は必死で考え、できる限り賢明な判断を下そうとした。

「陛下、北方の遊牧民族が再び国境を侵犯しております。どのように対処いたしましょうか?」ある大臣が問いかけてきた。

私は一瞬躊躇したが、すぐに答えた。「まずは外交交渉を試みよ。しかし、それが失敗した場合は、断固たる軍事行動も辞さない。我が国の領土と民を守ることが、何より重要だ。」

大臣たちは驚いたような顔をしたが、すぐに賛同の声が上がった。私の中の不安と、王としての威厳が交錯する瞬間だった。

朝議が終わっても、私の仕事は終わらない。その後は、様々な報告書を読み、政策を学び、時には民の声を直接聞くために市井に出かけることもあった。

そんなある日、市場を視察していた私は、一人の老人と出会った。

「陛下、お願いです。我々の村の税を少し軽くしていただけないでしょうか。このままでは、冬を越せそうにありません。」老人は涙ながらに訴えた。

その言葉に、私の心は揺れた。民の苦しみを和らげたい。しかし同時に、国家の財政も考えなければならない。王としての責任と、人間としての感情の間で、私は苦悩した。

「よく分かりました。」私は老人に答えた。「すぐに調査を行い、適切な対応を取ります。あなたの村だけでなく、同様の状況にある全ての村々のために。」

老人は感謝の言葉を述べたが、私の心の中では、まだ葛藤が続いていた。

夜、一人になると、私はよく天を仰いだ。

「父上、母上、私は正しい道を歩んでいるのでしょうか?」

答えはなかったが、私は自分の使命を感じていた。この分裂した中国を、いつか必ず統一するのだと。そして、その統一された中国で、全ての民が平和に暮らせる世を作るのだと。

しかし、その道のりが険しいことは、日々痛感していた。政治の世界は、私が想像していた以上に複雑で、時には残酷だった。信頼できると思っていた人が裏切り、敵だと思っていた人が助けてくれることもある。

そんな中で、私は少しずつ、しかし確実に成長していった。政治の駆け引きを学び、軍事戦略を磨き、そして何より、人の心を読む力を養っていった。

ある夜、書斎で政策文書を読んでいた私のもとに、呂不韋が訪れた。

「陛下、お疲れではありませんか?」彼は心配そうに尋ねた。

「大丈夫だ、呂不韋。これも私の仕事だからな。」

「しかし、陛下。あまり無理をなさらないでください。陛下はまだお若い。ゆっくりと…」

「ゆっくりとなどしていられん!」私は思わず声を荒げた。「この国には、解決すべき問題が山積みなのだ。私には、それを解決する責任がある。」

呂不韋は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに平静を取り戻した。

「もちろんです、陛下。私はただ、陛下の健康を気遣っただけです。」

その言葉に偽りがないことを願いつつ、私は彼を注意深く観察し続けた。呂不韋は私の後見人であり、政治的な師でもある。しかし同時に、彼自身も大きな野心を持つ人物だ。彼を完全に信頼していいのか、それとも警戒すべきなのか。その判断は、若き王である私にとって、最も難しい課題の一つだった。

第三章:権力闘争

成長するにつれ、私は宮廷内の権力闘争に巻き込まれていった。特に、呂不韋との関係は複雑だった。彼は私の後見人であり、政治の師でもあった。しかし同時に、彼自身も大きな野心を持つ人物だった。

ある日、朝議の後、私は呂不韋を個室に呼び出した。

「呂不韋、お前は私の師であり、助言者だ。」私は静かに、しかし力強く語りかけた。「しかし、忘れるな。この国を治めているのは私だ。」

彼は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに平静を取り戻した。

「もちろんです、陛下。私はただ陛下のために働いているだけです。」

その言葉に偽りがないことを願いつつ、私は彼を注意深く観察し続けた。呂不韋の野心は明らかだった。彼は私を通じて、自身の権力を強化しようとしているのではないか。しかし同時に、彼の政治的手腕は秦にとって必要不可欠でもあった。

「呂不韋、私はお前の能力を高く評価している。」私は続けた。「だからこそ、お前には私の右腕として働いてもらいたい。しかし、それは私の下での仕事だ。わかるな?」

呂不韋は深々と頭を下げた。「はい、陛下。私の忠誠は、常に陛下と秦にあります。」

この会話の後、呂不韋との関係は微妙に変化した。彼は以前にも増して忠実に働き、私の政策を支持した。しかし、その目の奥に潜む野心の炎は、決して消えることはなかった。

権力闘争は呂不韋との間だけではなかった。宮廷内には様々な派閥が存在し、それぞれが自分たちの利益を追求していた。私は常に警戒を怠らず、時には厳しい処置を下さなければならなかった。

ある日、私は宮廷内で密かに行われていた陰謀を発見した。その首謀者は、私が信頼していた大臣の一人だった。

「なぜだ?」私は捕らえられた大臣に問いただした。「なぜ私を裏切ろうとした?」

大臣は震える声で答えた。「陛下、申し訳ありません。私は…私は秦の将来を案じていたのです。陛下はまだお若く、経験不足だと…」

「黙れ!」私は怒りに震えながら叫んだ。「お前たちのような者がいるからこそ、この国は分裂し、弱体化しているのだ。」

この事件の後、私は宮廷内の粛清を行った。多くの大臣が職を失い、一部は処刑された。それは苦渋の決断だったが、国家の安定のためには必要な措置だった。

しかし、この経験は私に大きな教訓を与えた。権力者は常に孤独であり、誰も完全には信用できないということを。そして、真の統一は、単に国土を一つにするだけでなく、人々の心をも一つに束ねることだとい���ことを。

この頃から、私の中に大きな野望が芽生え始めた。単に秦を治めるだけでなく、分裂した中国全土を統一するという野望だ。それは途方もない夢のように思えたが、私の心の中で、その炎は日に日に大きくなっていった。

第四章:統一への野望

22歳になった私は、ついに自分の野望を実現させる時が来たと感じた。秦は既に強国となっていたが、私の目標はそれだけでは満足できなかった。中国全土の統一、それが私の真の目標だった。

ある日の朝議で、私は立ち上がり、力強い声で宣言した。

「諸君、我々の目標は明確だ。天下統一だ!」

会場は一瞬静まり返った。多くの大臣たちは驚きの表情を隠せなかった。彼らの目には、恐れと興奮が入り混じっているのが見て取れた。

「しかし、陛下。それは危険すぎます。」ある年老いた大臣が懸念を示した。「他の六国は簡単に屈服しませんぞ。多くの血が流れることになるでしょう。」

私は静かに、しかし断固とした態度でその大臣を見つめた。

「危険?そうかもしれない。しかし、分裂したままの中国の方がもっと危険だ。我々には、この国を一つにする責任がある。」

私は会場を見回した。そこには不安そうな顔、興奮した顔、そして決意に満ちた顔が混在していた。

「考えてみろ。」私は続けた。「今、中国は七つの国に分かれている。そのため、絶え間ない戦争が続いている。民は苦しみ、国力は消耗している。しかし、もし我々が中国を統一できれば、永続的な平和をもたらすことができる。交易は盛んになり、文化は花開く。これこそが、我々の目指すべき未来ではないか?」

私の言葉に、徐々に賛同の声が上がり始めた。

「陛下の仰る通りです。」若い将軍が立ち上がって言った。「我々には、この大業を成し遂げる力があります。秦軍は最強です。今こそ、その力を示す時なのです。」

「そうだ!」別の大臣も声を上げた。「統一された中国の繁栄を思えば、一時的な犠牲など取るに足らないものです。」

しかし、まだ反対の声も根強かった。

「しかし、他の国々は簡単に従わないでしょう。」ある大臣が懸念を示した。「長期的な戦争になれば、我が国の資源も枯渇してしまいます。」

私はその大臣に向かって頷いた。「その通りだ。だからこそ、我々は慎重に、そして賢明に行動しなければならない。まずは外交で、可能な限り平和的な統合を目指す。しかし、それが不可能な場合は、迅速かつ決定的な軍事行動を取る。我々の目標は、できるだけ速やかに、そして少ない犠牲で統一を達成することだ。」

議論は白熱し、数時間に及んだ。しかし最終的に、大多数の大臣たちが私の計画に賛同した。

「よし、決まりだ。」私は宣言した。「今日から、我々は中国統一に向けて動き出す。各位、それぞれの持ち場で最善を尽くしてくれ。」

会議が終わった後、私は一人で書斎に籠もった。窓から見える広大な秦の領土を眺めながら、私は深く考え込んだ。

「これが正しい選択なのだろうか…」

確かに、統一戦争は多くの犠牲を伴うだろう。しかし、それを成し遂げなければ、中国の分裂状態は続き、さらに多くの命が失われることになる。

「父上、母上。」私は空に向かって呟いた。「私は正しい道を歩んでいるのでしょうか?」

答えはなかったが、私の心の中には強い決意が芽生えていた。この道こそが、中国と民のための最善の道なのだと。

その夜、私は眠れなかった。しかし、それは不安からではなく、これから始まる大事業への期待と興奮からだった。明日から、新しい時代が始まる。統一された中国の時代が。

第五章:戦いの日々

統一戦争は、想像以上に過酷だった。最初の標的は韓だった。小国ではあったが、地理的に重要な位置にあり、その征服は他の国々へのメッセージにもなると考えたからだ。

「陛下、韓軍が降伏しました!」

将軍の報告に、私は静かに頷いた。喜びはあったが、同時に悲しみもあった。どれだけの命が失われたことか。

「よくやった。」私は将軍に告げた。「しかし、これはまだ始まりに過ぎない。」

私は窓の外を見た。まだ多くの国が残っている。そして、最大の敵である楚がいた。

韓の征服後、我々は魏と趙に向かった。これらの国々との戦いは、予想以上に長引いた。特に趙との戦いは苦戦を強いられた。

ある日、前線からの報告を受けて、私は愕然とした。

「我が軍の損失が甚大だと?」私は怒りと焦りを隠せなかった。

「はい、陛下。」報告した将軍は頭を深く下げた。「趙軍の抵抗が予想以上に激しく、我々は苦戦を強いられております。」

私は深く考え込んだ。このまま強引に攻め続ければ、さらに多くの兵士の命が失われる。かといって、ここで引き下がるわけにもいかない。

「よし、新たな戦略を立てよう。」私は決意を固めた。「正面からの攻撃は一時中断する。代わりに、趙の内部分断を図れ。貴族や将軍たちの中に、我々に協力的な者はいないか?」

この新しい戦略は効を奏した。趙の内部で権力闘争が始まり、その隙を突いて我々は勝利を収めることができた。

しかし、戦争が長引くにつれ、民の不満も高まっていった。徴兵と重税に苦しむ民衆の声が、私の耳に届くようになった。

ある日、一人の老婆が私の行幸の際に訴えかけてきた。

「陛下、どうか戦争を止めてください。私の息子も孫も戦場で命を落としました。もう、これ以上の犠牲は…」

その老婆の言葉に、私の心は大きく揺れた。しかし、ここで止めるわけにはいかない。統一こそが、最終的には民を救う道なのだ。

「婆よ、あなたの苦しみはよくわかる。」私は静かに、しかし力強く語りかけた。「しかし、我々が目指しているのは、永続的な平和だ。今は辛くとも、統一を成し遂げれば、あなたの曾孫の代には、戦争のない世界が実現するのだ。」

老婆は涙を流しながら頷いた。その姿に、私は改めて自分の責任の重さを感じた。

戦いは続いた。燕、齊、そして最後に楚。それぞれの国との戦いは、独自の困難を伴った。しかし、我々は着実に勝利を重ねていった。

そして、ついに最後の決戦の時が来た。楚との最終決戦だ。

「陛下、楚軍が迫っています!」

「恐れるな。我々には正義がある。中国を統一し、平和をもたらすという正義だ。」

激しい戦いの末、楚は降伏した。ついに、私は中国を統一したのだ。

戦場に立ち、広大な中国の大地を見渡した時、私の胸に込み上げてきたのは、喜びと共に、大きな責任感だった。

「これで終わりではない。」私は自分に言い聞かせた。「むしろ、これからが本当の始まりなのだ。」

統一された中国を、どのように治めていくか。どうすれば、長年の戦乱で疲弊した民を救えるか。そして、どうすればこの統一を永続的なものにできるか。

新たな挑戦が、私を待っていた。

第六章:始皇帝

中国統一を果たした私は、新たな称号を名乗ることにした。

「今日から、私は始皇帝と名乗る。」

私は宣言した。会場は歓声に包まれた。しかし、私の心は既に次の課題に向かっていた。

「しかし、諸君。これは終わりではない。むしろ、新しい始まりだ。我々には、この統一された中国を強く、豊かにする責任がある。」

私の言葉に、大臣たちは真剣な表情で頷いた。

統一後の最初の課題は、国家の制度を統一することだった。文字、度量衡、貨幣、そして法律。これらを統一することで、初めて真の「一つの国」が実現するのだ。

「李斯。」私は信頼する宰相を呼んだ。「文字の統一案はどうなっている?」

李斯は恭しく答えた。「はい、陛下。小篆を基本とした新しい文字体系の案が出来上がりました。これを全土に広めれば、文書の統一が図れるはずです。」

「よし、すぐに実施せよ。」

文字の統一は、思った以上に困難を極めた。各地で使われていた文字を捨て、新しい文字を学ぶことへの抵抗は大きかった。しかし、私は断固として方針を貫いた。

「抵抗する者がいれば、厳しく罰せよ。」私は命じた。「しかし同時に、新文字の教育にも力を入れるのだ。」

度量衡の統一も進めた。これにより、全土での取引が容易になり、経済の活性化が期待できた。

そして、最大の事業が始まった。万里の長城の建設だ。

「北方の異民族の侵入を防ぐためには、強固な防衛線が必要だ。」私は大臣たちに説明した。「既存の城壁を繋ぎ、さらに拡張する。これにより、我が国の安全は永久に保たれるのだ。」

しかし、この事業の規模は途方もなく大きかった。多くの民が工事に動員され、その労働は過酷を極めた。

ある日、工事現場を視察した私のもとに、一人の労働者が駆け寄ってきた。

「陛下、どうかこの苦役をお止めください。多くの仲間が命を落としています。」

その労働者の訴えに、私の心は揺れた。しかし、この長城こそが、中国の未来を守る要なのだ。

「わかっている。お前たちの苦労はよくわかっている。」私は静かに、しかし力強く答えた。「しかし、この城壁は、お前たちの子や孫を守るためのものなのだ。今は辛くとも、必ず報われる日が来る。」

労働者は涙を流しながら頷いた。その姿に、私は改めて自分の決断の重さを感じた。

統一後の政策には、光と影があった。文字や度量衡の統一、道路網の整備、貨幣の統一などは、確かに国家の発展に寄与した。しかし同時に、重税や過酷な労働、思想統制などにより、民の不満も高まっていった。

ある日、李斯が心配そうな表情で私のもとを訪れた。

「陛下、民の間で不穏な動きがあるようです。反乱の噂も…」

私は深く考え込んだ。確かに、私の政策は民に大きな負担を強いている。しかし、これらの政策こそが、強大で永続的な中国を作り上げるために必要なのだ。

「李斯、心配するな。」私は静かに答えた。「多少の不満はあろうとも、我々の目指す道は正しい。民衆には、もう少し辛抱してもらわねばならん。」

しかし、その夜、私は眠れなかった。本当にこの道が正しいのか。民の犠牲の上に築かれた国家に、本当の未来はあるのか。

窓から見える満月を見上げながら、私は自問自答を繰り返した。そして、ある決意に至った。

「よし、民のための新たな政策を打ち出そう。」

翌日、私は大臣たちを集めて新たな方針を示した。税制の見直し、労働環境の改善、そして教育の普及。これらの政策により、民の不満を和らげつつ、国家の発展を続けることができるはずだ。

「始皇帝」としての日々は、常に挑戦の連続だった。しかし、私は決して諦めなかった。統一された強大な中国を作り上げること。そして、その中国が永続的に繁栄すること。それが、私の使命なのだから。

第七章:不老不死への執着

統一を成し遂げ、始皇帝として中国を治めていた私だったが、一つの恐怖が心の中で大きくなっていった。死への恐怖だ。

私はかつてないほどの権力を手に入れた。広大な中国を自由に治められる立場にある。しかし、その私でさえ、死だけは避けられない。この理不尽さに、私は激しい怒りを覚えた。

「方士よ、不老不死の薬はまだか?」私は焦りを隠せずに尋ねた。

「申し訳ありません、陛下。まだ完成には至っておりません。」方士は恐る恐る答えた。

私は苛立ちを隠せなかった。せっかく天下を統一したのに、このまま死んでしまうのか?そんなことは絶対に許せなかった。

「もっと急げ!」私は怒鳴った。「どれだけの時間が必要なんだ?」

方士たちは震え上がりながら、必死に研究を続けた。私は彼らに莫大な資金と権力を与え、不老不死の薬の開発を急がせた。

同時に、私は全国に使者を送り、不老不死の秘薬を探させた。伝説の仙人が住むという蓬莱山を探す船団も派遣した。

「陛下、そこまでする必要があるのでしょうか?」李斯が心配そうに尋ねた。

「当然だ!」私は即座に答えた。「私が死んでしまえば、せっかく統一した中国がまた分裂してしまうかもしれん。私は永遠に生き、永遠にこの国を治めなければならないのだ。」

しかし、時は容赦なく過ぎていった。不老不死の薬は見つからず、私の体は確実に衰えていっていた。

ある日、鏡を見ていた私は、自分の顔に深いしわが刻まれているのを発見した。

「なぜだ…」私は鏡を叩き割った。「なぜ私は老いなければならないのだ!」

その夜、私は一人で書斎に籠もった。窓から見える月を眺めながら、私は深く考え込んだ。

「もし、本当に不老不死が手に入らなかったら…」

その考えは、私を恐怖で震えさせた。しかし同時に、新たな決意も生まれた。

「ならば、私の名を永遠に残す。私の業績を、誰も忘れられないようにする。」

翌日から、私は以前にも増して精力的に働き始めた。万里の長城の建設を加速させ、全土に道路を張り巡らせ、そして自分の墓である始皇帝陵の建設にも着手した。

「私の墓は、世界最大のものとなる。」私は宣言した。「誰もが、永遠に私の名を記憶するだろう。」

しかし、その裏で、私は依然として不老不死の探求を続けていた。方士たちは次々と新しい薬を持ってきたが、どれも効果はなかった。

ある日、一人の若い方士が、水銀を主成分とした薬を持ってきた。

「陛下、これこそが不老不死の秘薬です。」彼は自信満々に言った。

私は迷わずその薬を飲んだ。しかし、その直後から激しい腹痛に襲われた。

「うっ…」私は床に倒れ込んだ。

駆け���けた侍医たちは、必死に私を治療しようとした。しかし、水銀の毒は私の体内で猛威を振るっていた。

意識が朦朧とする中、私は皮肉な笑みを浮かべた。

「不老不死を求めて…かえって命を縮めるとは…」

そして、私は静かに目を閉じた。

第八章:巡行と反省

水銀中毒から一命を取り留めた私は、しばらくの間政務から離れることを余儀なくされた。その間、私は自分の人生と政策について深く考える時間を持った。

回復後、私は全国を巡行することを決意した。自分の目で民の暮らしを見て、政策の影響を直接確かめたかったのだ。

巡行の道中、私が目にしたのは、私の政策の光と影だった。

新しい道路や運河で繁栄する都市がある一方で、重税と過酷な労働に苦しむ民の姿もあった。統一文字の普及により情報伝達が円滑になった反面、地方の伝統文化が失われつつある地域もあった。

ある村で、私は一人の老人と言葉を交わした。

「陛下、確かに道路は良くなり、商売はしやすくなりました。」老人は言った。「しかし、重税のせいで、多くの若者が村を離れてしまいました。このままでは、我々の村は消えてしまうかもしれません。」

その言葉に、私の心は大きく揺れた。

「私は間違っていたのだろうか…」

馬車の中で、私は深く考え込んだ。確かに、中国は統一され、制度は整備された。しかし、その代償として失ったものも大きかった。

ある夜、宿営地で一人静かに座っていると、若い兵士が恐る恐る近づいてきた。

「陛下、お言葉を返すようで申し訳ありませんが…」兵士は震える声で話し始めた。「私の故郷の村は、長城建設のために多くの若者を失いました。残された家族は、悲しみに暮れています。」

私は黙って兵士の言葉に耳を傾けた。そして、初めて気づいたのだ。私は「中国」という大きな枠組みのことばかり考えて、その中で生きる一人一人の人間のことを見落としていたのではないか。

巡行から戻った後、私は政策の大幅な見直しを行った。

「李斯、聞いてくれ。」私は信頼する宰相に語りかけた。「我々は、もっと民の声に耳を傾けなければならない。統一や発展も大切だが、それ以上に大切なのは、民の幸せなのだ。」

李斯は驚いた様子だったが、すぐに頷いた。

「陛下の仰る通りです。では、具体的にどのような…」

「まず、税制を見直そう。」私は言った。「そして、長城建設の労働条件も改善する。さらに、地方の文化保護にも力を入れよう。」

これらの新政策は、多くの民に歓迎された。しかし同時に、一部の貴族や官僚からの反発も大きかった。

「陛下、このような政策では国力が弱まってしまいます。」ある大臣が反対の声を上げた。

しかし、私の決意は固かった。

「国の強さとは何だ?」私は問いかけた。「ただ広い領土を持ち、大軍を擁することか?違う。本当の強さとは、民が幸せに暮らし、心から国を愛することなのだ。」

この新しい方針は、私に多くの課題をもたらした。しかし同時に、新たな希望も生まれた。民との対話を通じて、より良い国づくりができるという希望だ。

そして、私は初めて気づいたのだ。真の不老不死とは、肉体の永遠ではなく、民の心の中に生き続けることなのだと。

終章:遺言

紀元前210年、私の人生は終わりを迎えようとしていた。長年の無理がたたり、私の体は急速に衰えていった。

最後の力を振り絞って、私は息子の胡亥を呼び寄せた。

「息子よ、聞け。」私は弱々しい声で語り始めた。

胡亥は涙ぐみながら私のそばに跪いた。

「父上、どうかお言葉を…」

「私は多くのことを成し遂げた。」私は続けた。「中国を統一し、制度を整え、万里の長城を築いた。しかし同時に、多くの過ちも犯した。」

私は深く息を吸い、言葉を選びながら話を続けた。

「お前は…私の過ちから学んでほしい。権力は民のためにあるのだ。それを忘れるな。」

胡亥は必死に頷いた。

「はい、父上。必ず守ります。」

「そして…」私は言葉を続けた。「私が築いた帝国を守れ。しかし、ただ守るだけではいけない。時代と共に変化し、成長させていくのだ。」

私は一瞬言葉を切り、窓の外を見た。そこには、私が統一した広大な中国の大地が広がっていた。

「最後に…」私は再び胡亥に向き直った。「民を大切にしろ。彼らこそが、この国の真の力なのだ。」

胡亥は涙を流しながら答えた。「はい、父上。必ずや、父上の遺志を継ぎます。」

私は微笑んだ。息子の言葉に、少しの安心を覚えた。

目の前が徐々に暗くなっていく。私は最後に、統一された中国の未来を思い描いた。平和で豊かな国。民が幸せに暮らす国。そんな中国の姿が、私の心に浮かんだ。

「私の夢は…まだ終わっていない…」

そう呟いて、私は永遠の眠りについた。

しかし、私の物語はここで終わらない。私の功績と過ちは、後世の人々に大きな影響を与え続けることだろう。そして、私が夢見た理想の中国は、これからの世代によって少しずつ実現されていくのかもしれない。

始皇帝としての私の人生は終わったが、中国の歴史はまだ始まったばかりなのだ。

"アジア" の偉人ノベル

"世界史" の偉人ノベル

読込中...
現在の速度: 17ms
現在の文字サイズ: 19px